10周年ライブのタイトルを、「きょうの私でうたう歌」とした理由は、マンスリーライブを続けて、「今」の自分を認めることができたからです。
──マンスリーライブでは、生まれて初めて書いたという「フトウメイナセカイ」も演奏したそうですね。どんな思いがあったんでしょうか。
書きためていた、伝えることができなかった言葉を歌詞の形にして、歌うようになったのが大学2年生のころでした。「フトウメイナセカイ」は8分近くある大作で、いま聴いてみると、曲の長さからもあふれ出る思いを感じますし、何より言葉の使い方に驚かされました。「青くて、丸裸の思いだな」と恥ずかしさもあるのですが、今の自分には絶対に書けないさらけ出し方で、「いい曲を書いていたな」と思うことができました。自分を認めるということが苦手なのですが、向き合うことで過去の自分を認めることができたというのかな。この曲をマンスリーライブで歌うとを決めた時は、ものすごく練習をしました。プロのアーティストとして整えられる前の自分と再会して、今の自分として歌うことができたことも自信になりましたね。音楽が、ライブが楽しいという基本的なことを再確認することができたんです。
──紆余(うよ)曲折を経て、今の自分が1番と思う事ができるって、強くなったのだなぁと思います。ブログに、「10年間の道のりはもちろん財産だけど、一番大切なのはいつだって『今』です」と書かれていたことが印象的でした。
強くなったんですよね。いろいろな人に出会って、いろいろな経験をしていく中で、強くなっていったんです。10周年に向けてのマンスリーライブを始める前は、不安な気持ちの方が大きかったですから。でも、一緒に出て欲しいなと思うアーティストに声をかけるということも、これまでに築いてきた人脈があったからであって、私は頑張って来たんだなぁと感じる事ができたんです。どんな私でステージに立つのかという部分も、自分の今の表情の中に、積み重ねてきたものが詰まっていると気がついて、そんなに気負わないでできました。10周年ライブのタイトルを、「きょうの私でうたう歌」とした理由は、マンスリーライブを続けて、「今」の自分を認めることができたからです。
──積み重ねの始まりを振り返ってみて頂けますか。
自分を試したいと、20歳の時に小田急線の町田駅前の路上でキーボードを持って歌い始めました。通勤の人に聴いて欲しいなと思って、駅でもらった時刻表を見て19時半に到着する電車に合わせて歌うことにしたんです。ホームから改札を出てくるまで2~3分くらいかかるので、半に歌い始めれば、出てきたころにサビになっているなぁと予測をして(笑)。怖かったのでずっと下を見て、3曲ぐらい歌って顔を上げたら、目の前にめちゃくちゃ人がいて。びっくりしたんですけど、「CDを持ってきています」と声をかけたら、遠巻きに観ていた人が寄って来て下さって。持って行った10枚全てが売れたんです。うれしかったですね。この出来事があったから、その後、人がなかなか止まってくれない苦しいときも、頑張ることができたんだと思います。路上で歌うまでは、「誰も私のことなんて必要としていない」と自分で勝手に自分を追い詰めて寂しかったけれど、歌を聴いてくれる人と出会ったことで、自分の居場所が見つかった気がしましたね。
10年前と、今。伝えたいこと。