──昔のバージョンと最近のバージョンとではどういうところが違うんですか。
昔は、強く歌い過ぎてるというか、自分の気持ちを歌ってる感じがすごく出てて、しかも最初から最後までずっとその調子で歌ってるんです(笑)。だから、聞き手に寄り添っている感じが全然無くて、届けるという感じとも違って、ただワーッと発信しているだけという感じだったんですけど、ライブを重ねているなかで、いつの間にか変わってきたんでしょうね。
──その変化は「永遠の絆」という曲に限ったことですか。それとも歌い方全般についての変化ですか。
歌い方全体が変わってきたと思います。そういう意味では、曲自体のメッセージもずいぶん変わってきてるんですけど。
──どうして、そういうふうに変わってきたんでしょう?
多分、わたしのなかで大きく変わったのはショッピングモールをまわり始めてからなんですよね。ライブハウスでやると、お客さんが一応歌を聴いてくれる状態でいるわけじゃないですか。でも、ショッピングモールだと通りすがりの人にまず足を止めてもらわなきゃいけないし、その上で座ってもらって、多分わたしのことは全然知らないだろうけど、その歌を最後まで聴いてもらわなきゃいけないっていう状況ですよね。そういうなかでずっとやってくると、どうやったらもっと聴いてもらえるかということを客観的に考えるようになるし、それにサイン会をやったり自分でチラシを配ったりしてると、いろんな人の思いや言葉の裏にある気持ちを汲み取れるようになったんですよね。
──いろんな人から自分の歌の感想を直接聴くことにもなりますからね。
上京してきたばかりの頃だったら多分“全然わかってないな、この人たち”みたいに思ってたんじゃないかと思うような場面でも、最近は“この曲では止まってくれたのに、この曲ではなぜ止まってくれなかったんだろう?”と考えるようになったし、“ここは人の流れがすごくあるのに、止まってくれないのは椅子の配置が良くないんだな”とか、そういうこともすごくわかるようになってきたんです。だから、そういういろんな状況に自分がちゃんと順応して、自分の曲がいちばん届くようなシチュエーションを考えて、その方向にいろんなものを向けていくというふうになっていったんですよね。
──「降り積もる刻」の2曲目、「トロフィー」という曲は、ホーンをフィーチャーした溌剌としたナンバーですが、これは前回のBLITZ公演でホーンを加えた編成でやったことから生まれた曲ですか。
そうです。「スーパースター」という、それまでどこでも演奏したことがない曲があったんですけど、その曲はホーンが入った編成にはきっと合うだろうと思ってやったらすごく評判が良かったんですよね。その曲の歌詞を書き直して仕上げたのがこの「トロフィー」という曲なんですけど、なぜそういうことになったかというと、わたしのライブに来てくれてる高校生でサッカーをやってる女の子がいて、彼女は試合の前にはいつも「明日へ向かう人」という曲を聴いてくれてたらしいんですけど、その曲はわりとじっくり聞かせるタイプのバラードなんですよ。だから、もっと士気が高まるようなアッパーな曲があるとうれしというようなことを彼女から言われて、それで彼女だけじゃなく、いろんなスポーツで挑み続けている人に届けたいと思ったし、もっと言えば勝ち続けているわけじゃないほうの人たちを鼓舞するような曲を作りたいなと思ったんです。
──音楽の神様が「あなたにトロフィーをあげよう」と言ったら、今はどんなトロフィーが欲しいですか。
ウ〜ン…、いろんな欲があるのでひとつには絞れないんですけど(笑)、全国ホール・ツアーをやれるトロフィー、かな。でも、それは単純に全国でライブがやれるというだけじゃなくて、そこにちゃんとお客さんが来てくれて、全国でそういう状況になってないと意味がないんですけど…。多分、上京当時だったらメジャー・デビューとかテレビに出て有名になるとか、そういうことしか思わなかったと思うんですけど、でも今はテレビに出たからと言ってお客さんが増えるかどうかは別問題ということがわかってますから。ちゃんと自分のなかにいい楽曲とちゃんとしたライブ・パフォーマンスができるという核がないとテレビに出る意味がないと思うし、いきなり武道館みたいなすごい会場で歌わせてもらっても、それに見合った実力がなければマイナス・プロモーションにしかならないと思うんです。もちろん、いまテレビに出られる話があったら、ものすごい勢いで引き受けると思うんですけど(笑)、それはいまだったらテレビでも歌っても絶対に響く人がいるという自信があるからなんです。
──それでも音楽の神様からのご褒美があるなら、ツアーのチャンスをふくらませたい、と?
例えば大晦日に「紅白歌合戦」に出られるという話と、全国ホール・ツアーでしっかりお客さんに歌を聴かせられるという話があれば、やっぱり全国ホール・ツアーの話を選ぶと思うんです。それは、出会いの喜びや歌う喜びを感じさせてもらっているライブというものが自分のいちばん核になっていると思うし、そのライブの現場でずっと生きていきたいと思っていますから。
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