この2018年でデビュー30周年を迎えた"エレファントカシマシ"が、トリビュートCD第3弾『カヴァーアルバム3 〜A Tribute to The Elephant Kashimashi〜』を2018年3月21日にリリースした。
2003年にリリースされたトリビュート第1弾、そして、2013年の第2弾につづき、5年越しのリリースとなった第3弾。
今作でも、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、斉藤和義、村越"HARRY"弘明をはじめとするベテランシンガーから、クリープハイプ、阿部真央、manaka(Little Glee Monster)などの"ナウな"アーティストたち、さらには東京スカパラダイスオーケストラ×高橋一生……バンドと役者という、ちょっと不思議なユニットまでが参加。
エレカシをリスペクトするさまざまなバンドやアーティストたちが、エレカシの名曲たちをすばらしいアレンジでカヴァーしている。
そして、注目のジャケットアートは、第1弾の松本大洋「花男」、第2弾の新井英樹「宮本から君へ」というマンガ家つながりにつづき、"エレカシを愛して止まない"マンガ家・うすた京介が担当。しかも、描き下しだ!
『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』や『ピューと吹く!ジャガー』など、『週刊少年ジャンプ』での連載ものが代表作品となっている、うすた京介。
本ジャケットアートでも、うすた氏の類いまれなるギャグエッセンスが、スパイシーでスペイシーに、そしてセクシーに、ぼんやりと、ちょっと効きすぎなぐらい、散りばめられている。
マンガカルチャーは、いまや日本を代表するポップカルチャーのひとつ。
マンガ家を目指す若い世代も右肩上がりで増加し、専門の教育機関や大学付属の図書館まで設立されたり、文化庁が中心となって開催している「文化庁メディア芸術祭」でのマンガ部門など、すでに国家プロジェクトのひとつとしてマンガカルチャーが発信されている。
ちなみに、海外ではアメリカとフランスは、日本に次ぐ世界の三大マンガ市場となっており、フランスでは、年に一度、ヨーロッパ最大級のバンド・デシネ(マンガ)のイベント『アングレーム国際漫画祭』なども開催。
日本マンガの消費大国としても有名だ。
日本のマンガは、世界が注目するアートとして成立しているコトはまちがいない。
そんなこんなで、ニッポンのマンガカルチャーが世界的にも日本社会的にも確立された昨今、マンガ家が音楽アーティストのジャケットアートを担当するコトは、それほど希なことではなくなってきている。
たとえば、2012年にリリースされた山下達郎のベスト盤『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012』のジャケットは、とり・みきによる描き下し作品「タツローくん」だ。とり・みきは、山下達郎ファンクラブの会報誌の4コマ漫画「タツローくん」も担当しており、ヤマタツファンにはお馴染みの漫画家である。そして、ココにきて「タツローくん」はメジャーデビュー(?)を果たしたというワケだ(笑)。
銀杏BOYZは『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』(2005年)で、『ストップ!! ひばりくん!』の作者、江口寿史をフィーチャー。江口氏は、最近、シティポップ系サウンドのジャケットイラストなども手がけているので、『ストップ!! ひばりくん!』世代じゃなくとも、氏のイラストや作品に目を触れた事のある若い世代も多いのでは?
2012年リリースの真心ブラザーズ『Keep on traveling』 では、マンガ『宇宙兄弟』の作者小山宙哉による描き下し。小山氏は、かねてから真心ブラザーズのファンだったとか。
くるり『ロックンロール・ハネムーン』(2014年)は、タイのマンガ家&イラストレーターのタムくん(ウィスット・ポンニミット)による描き下し。「琥珀色の街、上海蟹の朝」のミュージックビデオのアニメーションも担当している彼。SAKEROCKのグッズなども手がけていたことで、音楽ファンにはおなじみでは?
また、岡村靖幸は『愛はおしゃれじゃない』(2014年)で、Base Ball Bearの小出祐介と、マンガ家・久保ミツロウとトリプルコラボレーション。久保ミツロウはジャケットアートのほか、マンガ風絵コンテの描き下ろしをCDブックレットに収めたという、まさに、マンガカルチャーと音楽カルチャーのフュージョン作品であると言っても過言ではないだろう。
音楽カルチャーへのマンガカルチャーからのアプローチ…つまり逆フュージョンにつねに挑戦しつづけているのは、マンガ『レコスケくん』の作者でおなじみのマンガ家・本秀康。彼は、2011年にリリースしたceroの『WORLD RECORD』でジャケットアートを担当。
UAのカヴァーアルバム『KABA』では、少女マンガ家として、女性に人気をほこるマンガ家、くらもちふさこをフィーチャリング。『天然コケッコー』の作者としてあまりにも有名な彼女。もしかしたら、少女マンガ家としては、コレが初のメジャー参入だった…のカモ。
ちがうかもだが。
そして、アニメ作品『AKIRA』でお馴染み、日本のアニメーション界を代表する巨匠、大友克洋を起用したのは、なかの綾のメジャーデビューアルバム『わるいくせ』。ナント!うらやましすぎるオリジナルでの描き下し作品。かねてからなかの綾の大ファンであった大友氏。一緒にカラオケスナックに行ってお願いしたとか、していないとか…。たしか、大友克洋の作品がジャケットに使用されているのは、『AKIRA』など自身の映像作品のサウンドトラックと、『童夢』のイメージアルバムだけだったような。
最後に、90年代の下北沢サブカルチャーを代表するマンガ家で、最近映画化された『リバーズ・エッジ』の作者としておなじみの岡崎京子の作品をフィーチャーしたのは、サニーデイ・サービス。2017年にリリースしたEP『桜 super love』に起用。曽我部恵一自身が岡崎京子作品の大ファンとの事で、彼女のご親族にダメ元でお願いしたとか。90年代の下北沢カルチャー代表するバンドである"サニーデイ・サービス"が、90年代の下北沢サブカルチャーを代表するマンガ家岡崎京子をフィーチャーするという、まちがいなく下北沢つながりな、サブカルファン、下北カルチャーファンにはなんともうれしすぎるコラボレーション。とにかく、ピンク色のインパクト大なジャケットは、この季節にピッタリないちまいである。
という感じで、マンガアート×音楽カルチャーのフュージョンが、超加速中の2010年代後半。
話をエレカシの新作トリビュートCDにもどすが、ジャケットを担当したうすた京介氏は、「孤独、焦燥、憂い、怒り、ふがいなさ、男らしさ、それとちょこっとの希望。エレカシ聴いてる時はたぶんみんなこんな顔してるんじゃないかな、というイメージで描いた」という今作。
そんな感じで、まさに人間の感情そのものを歌いつづけているのがエレファントカシマシなのだ。
エレカシファンやCMやドラマなどでたまたま彼らの音楽に触れた人たちだけではなく、同業のミュージシャン、そしてマンガ家など、とくに誰を応援するというワケでもなく、ただ触れた人にキツケ薬のごとくグッとココロに効く曲を、30年もの間、創りつづけいる唯一無二の存在であることはまちがいない。
一時期は、作詞・作曲を手がけるボーカルの宮本浩次が、左耳の急性感音難聴を患い、バンドは約1年間、ライブ活動を休止するも克服。
めでたくデビュー30周年をむかえた彼らを、今度は、われわれ音楽ファンが彼らを応援する番なのかもしれない。
エレカシの曲を聴いたコトがないヒトは、まずはさまざまなアーティストが彼らの名曲をカヴァーした『カヴァーアルバム3 〜A Tribute to The Elephant Kashimashi〜』を、聴いて、効いてみるコトをおススメする。